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確信。

彼女とは、学校ですれ違うと
挨拶する位の友達になっていた。
それが昼休みだった場合にはベンチで話をすることもあった。

自分の中では、そんなに意識して無かったのだと思う。
相変わらず、少し胸が苦しかったけれど。

そんな状況が一転したのは、ある日の帰り道だった。
ある友人に、
「お前、あの子のこと好きなんじゃねえの?
 端から見ると、そうしか見えないよ。」

「あっ・・・。」
言葉が詰まった。
そう言われて、何かが壊れた。
殻の様なモノだったと思う。
自分が見てこなかった部分。
直視できなかった所。

友達を好きになって、
つき合い・別れ、その後、元の状態に戻れた事は無い。
それが嫌だった。どうしても。

けれど、
自分は彼女のことが好きになっていた。
もう後戻りは出来ない。

さて。

彼女は九州出身だった。
自分とは全く違う環境で過ごしたことになる。
逆に言えば、自分は彼女の育った環境を知らない。

短い夏。
鉛色の空。
海に降る雪・・・。
これが、自分の育った街だから。


彼女と話す様になったのは、
5月の初めに行われたサークルの合宿の頃からだ。
合宿の夜に、酒を飲みながら、
確か、高校時代のことや、今の生活のこと。
音楽やそういった類の趣味の話で盛り上がった。

他の人が寝静まった後
アルコールが回っていたのか
寝言なのか、本音だったのか。
今ではその真相を知ることをできない。
「寂しい。」彼女はそう一言だけ呟いて
自分の手を軽く握ったまま寝てしまった。
悪い気はしなかった。
自分だって寂しかったのだから。
人の体温はこんなにも温かいものだったのか・・・。

頭の中がもやもやしていた。
胸が少し苦しかった。

さて・・・。

そして全てが動き出す。

程なくして、大学が始まった。
あっという間に、友人が10人以上でき
何だか不思議なグループとなった。
昼休みになると、
学食の一部のテーブルを占領するようになっていた。

自分の家は、大学から近いこともあり
頻繁に友達が泊まっていった。
最大で、六畳の部屋に男が7人泊まった事がある。
今考えると、地獄のような状態だ。
翌朝、全員が「酸欠」というものを
身を以て知ることになる。


新しい世界。
自分はそこに馴染もうと努力していた。
どちらかというと人見知りする自分を、治そうとした。
積極的にコミュニケーションを取ることで。

そして、とあるサークルに入ることになる。
本当に大した理由は無かった。
大学=サークルというイメージが有ったからだ。

そのサークルで、ある女の子に出会った。
他学科に通う同い年の女の子。
彼女との出会いが、今後の人生に大きな影響を与えることを
誰が想像できただろうか?

善し悪しは別として、歯車は動き出した。
自分でも、意識しないところで。

彼女の部屋。

他人の部屋には、それぞれ違った匂いが有る。
生活の匂いと言えば良いのだろうか?
その人から発するモノはほとんど無い。
けれど、
何かが蓄積され、混ざり合い、部屋に染みついてしまう。

まだ、こっちに来てほとんど日が経ってないのに、
彼女の部屋は、彼女の匂いがした。彼女の為の匂い。

正直、この子と深い所まで話し込んだことは無い。
どちらかと言うと、一方的に話され
その相談に乗った事があるくらいだ。

けれど今日は違った。
コンビニで買ったビールを片手に昔話に花を咲かせていた。
修学旅行の夜では無いけれど、「実は」といった具合の話だ。
彼女は自分に対して、心を開いてくれたと思うし
自分も、それ相応に心を開いた。

結論から言うと
その晩、彼女と寝ることになる。
(寝ると言っても、抱くとは違う。これからも
微妙な使い分けをして行く。)
腕枕をして、彼女の顔がすぐそこに有った。
「これ以上、あなたに近づいたら、
本当に好きになってしまう。ずっと友達でいたいから・・・。」
彼女が、そう耳元で囁いた。

誰かに甘えたかった。
知らない街に来て、友人もいない。
それは自分も彼女も一緒だった、
お互い狡かったんだと思う。

彼女の為の彼女の部屋。
そんな部屋の中で、
彼女の少し上方をぼんやりと眺めていた。

多分、彼女と会うことは二度と無いだろう。
そんな予感が頭をよぎった。
そしてその予感は的中することになる。

夕方。

その電話の主は、高校の同級生だった。
同じクラスで、結構仲の良かった女の子。

受験中は、彼女に色々と励まされたりした。
手紙を貰ったり、
参考書の裏表紙に何か言葉を書かれた記憶がある。


「多分、家が近いと思うから遊びにおいでよ。」
そんな内容の電話だった。
路線図を見てみると、確かに電車を2~3回乗り継げば
行ける場所だった。時間は思ったほど掛からない。

もう夕方だったが、彼女の家に向かうことにした。
一人暮らしになって、初めての外泊。
言い換えれば、一人暮らしだから出来るようになった。

駅に着くと、彼女が立っていた。
田舎に居たときと変わっていなかったので
何だかホッとした。
まぁ、お互い引っ越してから
10日くらいしか経っていないのだから、当たり前か。

「久しぶりね、何だか。」
「ああ、そうかもな。」
「みんなどうしているんだろうね?」
「さぁ、結構バラバラになっちゃったから・・。」
そんな、当たり障りのない会話をしながら彼女の家に向かった。

斜め45度に居る彼女のせいだろうか?
色々な物の雰囲気が違って見えた。

新生活。


田舎から約600km。
新しい街にやって来た。
けれど、これといった特徴も無く、静かな町並みだった。
この土地に慣れるまで、そう時間はかからなかった。

親の監視下を放れ、全てを自分でやらなくてはならなかったが、
言い換えれば自由が手に入ったことになる。
家事洗濯は苦手な方では無かったので
これと言って不自由さは感じなかった。

大学が始まるまで、あと一週間くらい有る。
何をして良いか判らず、漫然と日々を過ごしていた。
この頃からタバコを吸い始めた。

ある人の言葉を借りるとすれば
「過去についてはこのとおり。未来については恐らく。」
まさに、そんな状況だった。

そして、間もなく始業式というある日
一本の電話が鳴る。

再び街について語る。

季節の半分は冬のようなものだ。
雲は鉛色で、空を低く感じさせる。
短い夏とは全く逆の空が頭上にある。

14年この街で過ごした。
でも、もうお別れだ。

今でもその街に戻ると
色々な思い出が鮮明に甦ってくる。

駅・河川敷・通学路・公園。

小さな世界だったが、
それなりに満足していたんだろうと思う。

街を出るとき
寝台特急は遅れに遅れ
雪を蓄えた電車がホームにやってきたときは
すっかり日が変わってしまっていた。

改札をくぐる。
新しい場所での、新しい生活が待っている。

さよなら。
そしてありがとう。